モンテッソーリ教育は運動不足になる?

モンテッソーリ教育は運動不足になる?

モンテッソーリの教室や園に通わせていたけど、活発なうちの子には向いていなかったから辞めた。

モンテッソーリの園では室内でのお仕事ばかりで外遊びの時間がほとんどなかった。

こういった話を聞くと、モンテッソーリ教育は運動の面ではあまりよくないのでは?と思われる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、モンテッソーリ教育と運動の関係について解説していきたいと思います。

こんなあなたへ

モンテッソーリ教育って知育のイメージだけど、運動はどうなのかな?

うちの子は外で走り回るのが大好きだから、室内で「おしごと」をするモンテッソーリ教育は向いてないかも。

モンテッソーリ教育で運動不足になるというのは本当か

結論から言って、モンテッソーリ教育のせいで運動不足になるあるいは、モンテッソーリ教育は活発な子には向かないというようなことはありません。

なぜなら、モンテッソーリ教育では、子どもの運動発達をとても大切にしているからです。

精神医学者で文化人類学者でもあったマリア・モンテッソーリは、運動能力の発達が心や脳の発達に深く関連しているということを理解していたため、子どもたちが自由に運動できる環境を整えることが重要であると考えていました。

なぜモンテッソーリ教育は運動不足になるといわれるのか

モンテッソーリ教育と運動

モンテッソーリ教育が子どもの運動発達をとても大切にしているのであれば、なぜ、モンテッソーリ教育で運動不足になるといわれるのでしょうか。

これは大きく分けてふたつの理由があります。

① モンテッソーリ教育ができていないから

ひとつ目の理由は、園や教室、あるいは家庭において行われているモンテッソーリ教育が、本来の理論に基づいて実践できていないからというものです。

近年、様々な園や幼児教室でモンテッソーリ教育を取り入れています!という声を聞くことは増えてきましたが、

  • 園児や生徒をたくさん集められるからという理由で「モンテッソーリ教育」という看板を掲げているが、実態が伴っていない
  • もともとはモンテッソーリ教育をしっかり実践していたけれど、職員の入れ替わりによってできなくなってしまった
  • 職員間で方針が共有されておらず、一部の職員はモンテッソーリ教育について理解していない

など、様々な理由で、モンテッソーリ教育の理論に基づいて実践できていない教室や園が数多く存在することも事実です。

モンテッソーリ教育は本来、生活全体を通して実践していくべきものですので、部分的にカリキュラムに組み込み、「さあ、座ってお仕事をしましょう」という指導をすればよいというものではありません。

モンテッソーリ教育について表面的にしか理解していないまま実践されている場合、本来とても重要である運動についても軽視され、その結果として運動不足になってしまうということはあり得ます。

家庭で実践される場合は、親御さんが基本理念を理解しておく必要がありますし、園や教室に通う場合、本当にモンテッソーリ教育を実践できているのかを見極める必要があります。

② 運動についての捉え方が違う

モンテッソーリ教育が運動不足になるといわれるもうひとつの理由として、そもそも運動についての捉え方が違うということも関係しているのではないかと思います。

おしごとをするのがモンテッソーリ教育だから、室内での活動ばかりで外遊びの時間が少ない。だから運動不足になるという声をよく耳にします。

たしかに、モンテッソーリ教育では教室内に様々な教具が設置されており、子どもたちはその中から興味があるものを自由に選んで活動します。このとき、子どもたちが興味を持った活動に集中し何度も繰り返し行うことができるよう、おしごとの時間は3時間程度確保するのが望ましいとされています。

そうするとやはり、一般的な教育方法に比べて室内で活動する時間は多くなる傾向にあることは事実です。

ではこのとき、室内の活動では運動していないのでしょうか?

もちろんそんなことはありません。

教室内の活動でも、じょうろに水を汲んできて植物の水やりをしたり、雑巾やスクイージーを使って窓を磨いたり、給食の準備のために机を運んだりと、室内をたくさん動き回り、全身の様々な筋肉を使って活動しています。モンテッソーリ教育の環境では、多くの活動に運動の要素が取り入れられているのです。

大人でも、家の中を掃除したり、家具を動かしたりするのは結構な運動になりますよね。

多くの時間を室内で活動するから運動不足になるというのは誤解です。

文部科学省の幼児運動指針にも次のように記されています。

幼児にとって体を動かすことは遊びが中心となるが、散歩や手伝いなど生活の中での様々な動きを含めてとらえておくことが大切である。

幼稚園、保育所などに限らず、家庭や地域での活動も含めた一日の生活全体の身体活動を合わせて、幼児が様々な遊びを中心に、毎日、合計60分以上、楽しく体を動かすことが望ましい。

文部科学省 幼児運動指針

外で元気に走りまわることだけが運動ではないということですね。

モンテッソーリ教育における運動

一般的に、子どもに十分な運動をさせてあげよう!という場合、公園に行って滑り台やブランコで思いっきり遊んだり、追いかけっこをして走りまわったりといったことがイメージされるのではないかと思います。

しかし、マリア・モンテッソーリは、運動は単に動くことではなく、子どもの発達や教育につながるものでなければならないと考えていました。

誰もが知っているように、こどもは抑圧されない限り、絶えず動いています。しかし、これらの大部分は、教育にとって重要ではありません。

(中略)

教育的運動というのは、子どもを従来の能力のレベルに放置しておくのではなしに、新しい力を与え、子どもの人格を形づくり、強固にしていく活動でなければなりません。

E.M.スタンディング
『モンテソーリの発見』

モンテッソーリ教育ではどのような運動が行われているのか、一部の活動をご紹介します。

① 自由に動き回ることができる環境

モンテッソーリ教育の環境では、子どもたちに動く自由があります。そしてその自由は、誕生してすぐの赤ちゃんにも保障されています。

一般的な赤ちゃんの生活を考えてみると、ベビーベッドやハイチェア、バウンサーやバンボといったあまり身動きが取れない場所にいることが多いのではないでしょうか。

安全で、大人にとってはとても便利ですが、運動発達の面はあまり考慮されていません。

しかし、モンテッソーリ教育で良いとされている赤ちゃんの生活環境は異なります。

まず、運動できる範囲が限られてしまうためベビーベッドは基本的には使いません。そして、誕生してすぐの時期から自由に動ける運動用のマットを準備し、日中はそこで過ごします。

そして、ハイハイができるようになったら運動マットは撤去し、家の中を自由に動き回れるよう環境を整えます。

家庭でのモンテッソーリ環境の整え方はこちら

ちなみに・・・

バウンサー、歩行器、ベビーサークルなどは赤ちゃんの運動発達を妨げるものであるため、モンテッソーリ教育では絶対に不要であるとされています。

【要注意】ベビー用品を買う前に知っておいてほしい【危険な4つのアイテム】

家庭だけでなく、園や教室でも、モンテッソーリ教育の環境では、子どもたちに動く自由が保障されており、自分の興味に従って自由に動き回って活動をすることができます。

ただし、自由とはいっても、室内では走らない、他の子の邪魔をしないといったルールは存在します。これについて詳しくは自由と制限の理論をご参照ください。

③ 日常生活の練習

モンテッソーリ教育における運動としてご紹介したいもうひとつの活動が日常生活の練習です。

モンテッソーリ教育は特徴的な教具ばかりが注目されがちですが、実は日常生活の活動が一番重要と言っても過言ではありません。日常生活の練習は身体的にも精神的にも子どもの発達を助けてくれるものです。

私たちは、子どもたちのためのいろいろな活動を持っています。 体操の代わりに子どもたちの身体を発達させる活動です。それらの活動はひとつの目的を持っていて、運動ができるようにします。したがって、性格の発達を助けます。たとえば「日常生活の練習」は身体的な運動です。

マリア・モンテッソーリ
『1946年ロンドン講義録』

子どもが歩くようになると、それまでハイハイやつかまり立ちでふさがっていた手が自由に使えるようになり、本格的に目的を持った運動である日常生活の練習がはじまります。

日常生活の練習は、大きく4つの分野に分けられます。

  1. 自分のケア
  2. 環境のケア
  3. 物の移動
  4. 礼儀作法・挨拶

自分のケアは衣服の着脱や歯磨きなど、身だしなみを整えることに関連した活動で、環境のケアは植物の水やりや掃除など、いわゆる家事のような活動です。

また、物の移動は使用する道具や椅子を運ぶこと、そして、礼儀作法・挨拶には食器の持ち方や戸の閉め方などが含まれます。

↓ 日常生活の練習についてはこちらの記事で詳しく解説しています。 ↓

モンテッソーリ教育においては、この日常生活の活動をすることで、少なくとも幼児の場合は、必要十分な運動ができていると考えられています。

みなさんも掃除や洗濯、あるいは模様替えのための家具の移動などをしていて、汗をびっしょりかいたという経験があるのではないでしょうか?

たしかに、家事は意外と重労働!

大人でもひと苦労する家事を子どもがやる場合にはかなりの運動量になりますし、子どもは繰り返し活動を行うため、さらに運動量が増えていきます。

ちなみに・・・

家事の運動量を消費カロリーで考えてみると、洗濯物を干す(60kcal)、床掃除(150kcal)のように、ウォーキングやストレッチに相当することがわかります。

参考:家事でカロリーはどのくらい消費できる?ダイエットにも最適!(カジドレ)

③ 線上歩行

線上歩行

モンテッソーリ教育における運動として、平衡感覚を育てるための「線上歩行」もよく知られています。線上歩行とは、床に楕円形の線を引き、その上を一歩ずつ、綱渡りのように歩いていく活動です。

街中を歩いていて、子どもたちが縁石ブロックの上や歩道の線の上を歩く様子を見かけたことはないでしょうか?大人は「危ないからやめて!」と言いたくなりますが、子どもたちはバランスを取りながら楽しそうに歩きます。

実はこれは、どこの国の子どもにも共通してみられる行動で、自然な衝動から生まれるものなのです。

こども達は、無意識にもかかわらず将来のための準備として、このような運動が必要だと感じているに違いありません。こども達の要求に応えて、バランスを取る特別な運動をさせると、子どもたちは熱心にのってきます。

E.M.スタンディング
『モンテソーリの発見』

平衡感覚を養う運動への欲求を持っている子どもたちにぴったりなのが、この線上歩行というわけです。

身体を支える筋肉が未発達で、体に対して頭が大きい子どもたちにとって、1本の線の上を歩くというのは、最初はとても難しいものですが、日常的に行うことでどんどん上達していきます。

繰り返し練習して、線からはみ出さずに歩けるようになったら、物を持って歩いたり、10cm程度の高さの板を置いてみたりといった発展バージョンも行うことができます。

こちらも参考に

モンテッソーリ活動「線上歩行」 アイン三枚町保育園はな組さんの様子

大人からすると、ただ、線の上を歩くだけの何の変哲もない動作に思えるかもしれませんが、子どもたちにとってはとてもチャレンジングで面白い活動です。

マスキングテープなどを使って線を引くだけなので、おうちの廊下などでも簡単にできます。

まとめ

ということで今回はモンテッソーリ教育と運動の関係について解説しました。

  • モンテッソーリ教育そのものが運動不足の原因ではない
  • モンテッソーリ教育を正しく実践することが重要
  • 外で走り回ることだけが運動ではない
  • モンテッソーリ教育では目的を持った運動が重要視されている
  • 運動発達のための様々な活動がある

日常生活の練習や線上歩行など運動発達と関係が深い活動をいくつかご紹介しましたが、他にも様々な活動がありますし、当然、公園や園庭などの屋外で遊ぶ時間も設けられています。

オリンピックアスリートを目指すようなトレーニングを求めているのでなければ、モンテッソーリ教育の環境で十分に運動ができています。

今回の記事が参考になったらうれしいです。ありがとうございました!