GoogleやAmazon、Wikipediaの創立者が受けていた教育として知られ、日本では、棋士の藤井聡太さんの活躍で一躍注目を集めたモンテッソーリ教育。
「なんだか良い教育らしいけど、実際どんな教育なの?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
今回はそんなモンテッソーリ教育について解説します。
モンテッソーリ教育って聞いたことはあるけどよくわからない
どんなメリット・デメリットがあるの?
目次(クリックしてジャンプ)
モンテッソーリ教育の概要
モンテッソーリ教育は、20世紀の初めにイタリア人の女性医師マリア・モンテッソーリによって考案された教育方法です。
当時(あるいは現代においても)、教育と言えば「なにもできない子どもに教師が教える」ことと考えられていました。
しかし、マリア・モンテッソーリは、子どもは生まれながらに、計り知れない可能性と発達の欲求を持っており、大人にできることは、その発達を援助することだと考えました。
子どもがもつ発達の欲求は「自己教育力」と呼ばれることもあります。子どもが、言葉を教えなくても話すようになったり、歩き方を教えなくても歩くようになったりするのはこの自己教育力のおかげであるといえます。
医師であったマリア・モンテッソーリが考案したモンテッソーリ教育の理論は、脳科学や生物学など科学的根拠に基づいているため、現代においても色あせることなく、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、インドなど世界110か国以上で高く評価され、実践されています。
日本では保育園や幼稚園で取り入れられていることが多いため、幼児教育として認識されていますが、本来のモンテッソーリ教育は0歳から24歳までを対象とした包括的な教育です。
マリア・モンテッソーリの人物像
モンテッソーリ教育の考案者マリア・モンテッソーリは、教育家として知られていますが、元々はイタリア人初の女性医師として知られた人物でした。
当時、女性が大学で学ぶこと自体が珍しかったため、父親に反対されたり、男子学生から不当な扱いを受けたりしながらも、逆境に負けず、優秀な成績でローマ大学の医学部を卒業しています。
マリアが廊下をいくと、すれ違いざまに学生は「プーッ」と音声をあげるのでした。
そのさげすみの声に対して「吹きとばしてはいかが。吹かれれば、それだけ私は上の方に舞いあがりますから。」マリアは愉快そうに答えるのでした。
E.M.スタンディング
『モンテソーリの発見』
なんとも勝気で、ユーモアのある、彼女の人柄がよく表れているエピソードですね。
大学卒業後、精神科医として働いたり、大学に戻って心理学や文化人類学を学んだりしながら、モンテッソーリ教育を体系化した彼女は、生涯にわたって教育の発展に努めました。
マリア・モンテッソーリの長年の功績は高く評価されており、ノーベル平和賞に3度ノミネートされたほか、アメリカの有名雑誌であるTIME誌で表紙を飾るなど、世界的な教育家として知られています。
また、彼女が亡くなった後も、教育界に大きく貢献した人物として敬愛され続け、2020年には生誕150年を記念した2ユーロ硬貨が発行されました。
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モンテッソーリ教育の歴史
モンテッソーリ教育は元々知的障がい児の教育のために考案されたものでしたが、マリア・モンテッソーリはこの教育方法が一般的な教育よりも合理的で、すべての子どもに適用できるものであると考えるようになりました。
マリア・モンテッソーリの効果的な教育方法のうわさを聞いたイタリア政府関係者は、彼女にスラム街の未就学児向けの施設長になることを依頼します。
こうして、1907年にイタリアのローマに「子どもの家」が誕生しました。これがモンテッソーリ教育の始まりといえます。
その後モンテッソーリ教育はイタリア国内にとどまらず世界中に広がっていき、現代においても、イギリス王室で取り入れられたり、世界をリードするグローバル企業の創立者を輩出したりと、大きな注目を集める教育方法になっています。
子どもの家(イタリア語ではCasa dei Bambini、英語ではHouse of Children)はモンテッソーリ教育ならではの呼び方なので、「○○子どもの家」や「カーサデバンビーニ」という名前の園はたいていモンテッソーリ園です。
モンテッソーリ教育7つの特徴
では、ここからはモンテッソーリ教育の特徴を解説していきます!
~モンテッソーリ教育7つの特徴~
①子どもを尊重する
②知識のつめこみではない
③縦割りのクラス編成
④最大限の自由
⑤最高の環境づくり
⑥緻密に設計された教具
⑦平和教育
それぞれ詳しく解説します。
① 子どもを尊重する
モンテッソーリ教育では、子どもをひとりの人格を持った人間としてリスペクトしています。
言い換えると、私たちが普段大人に接するのと同じように子どもと接しているということです。
友だちや同僚に対しては絶対にしない行動でも、子どもには普通にしてしまうことはないでしょうか?例えば、
- 何も言わずにティッシュで鼻水を拭く
- 「こっちに行くよ」といきなり手を引っ張る
- 謝罪もせず約束をやぶる
- 「はいはい」と話を聞き流す
大人が忙しいときにはついやってしまいそうなものですが、モンテッソーリ教育では(モンテッソーリ教師は)、こういった行動をしないように細心の注意を払っています。
子どもは尊重されることによって「自分は大切にされる存在だ」という認識を持つようになり、これが自己肯定感の構築につながっていくのです。
② 知識に偏らない
モンテッソーリ教育は、よく、知育教育と誤解されていますが、決して知識偏重型の教育ではありません。
算数や言語など知的な能力を発達させるための活動はもちろんありますが、これらは、同時に心と体の発達を促すようにデザインされたものになっています。
モンテッソーリ教育では、日々の生活に欠かせない、掃除や洗濯、クッキングなどが活動の一環として組み込まれており、あいさつや物の扱い方などの礼儀作法も学ぶため、子どもたちは社会的なスキルを身につけることができます。
モンテッソーリ教育において、いわゆる「勉強ができる」ことは重要ではありません。
バランスよく子どもの能力を育むことを大切にしています。
③ 縦割りのクラス編成
日本の教育システムでは、多くの場合、年齢によってクラスが分けられますが、「子どもの発達に合わせる」ことを大切にしているモンテッソーリ教育のクラスは、基本的に縦割り編成になっています。
これは、モンテッソーリ教育の考案者であるマリア・モンテッソーリが、子どもたちの発達のスピードはひとりひとり異なるということ、そして、特に6歳以下であれば月齢が数カ月違うだけでも発達段階が大きく変わってくるということを深く理解していたためです。
一般的な学校システムのように学年単位で区切ってしまうと、早生まれの子どもや低出生体重の子どもたちは「他の子はできるのに自分はできない」という劣等感を感じてしまいますが、異なる年齢の子どもたちが一緒に活動を行うことで、自分よりできる子もいればできない子もいるという環境で伸び伸びと活動を行うことができます。
縦割りクラスでは、年上の子どもは、小さい子たちの「お兄さん」「お姉さん」として、お手本になろうと努力するため自立心や思いやりの心が育まれ、年下の子どもたちは、お兄さんお姉さんの活動の様子やお友だちとのかかわりを近くで見て、どんどん吸収していきます。
兄弟でも、下の子は上の子を真似するから発達が早いね!
④ 最高の環境づくり
モンテッソーリ教育では、子どもにとって最高の環境づくりに力を入れています。モンテッソーリ教育で「環境」という場合
- 使う道具の大きさ
- 照明器具の明るさ
- 周りの大人の態度
など様々な要素が含まれます。
子どもを取り巻くあらゆるものを発達に最適なものにし、「整えられた環境」をつくることがモンテッソーリ教育では必要不可欠であると考えられています。
モンテッソーリ教育の環境についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
⑤ 最大限の自由
こどもたちが自由であることもモンテッソーリ教育の特徴のひとつです。
ただし、この自由には常に制限がセットになっていて、何でも好き放題にできるというわけではありません。
「①自分自身②ほかの子どもたち③教具④環境を尊重し、配慮できている場合においてはなんでもできる」
これは、モンテッソーリ教育の環境においての共通認識です。
例えば、子どもたちには当然話す自由がありますが、他の友だちが先生と話しているときに割り込んで話すことは、その友達への配慮に欠ける行動なので許されません。
子どもの自由とその制限については以下の記事でも解説しています。
【徹底考察】モンテッソーリ教育で育つとわがままになる?⑥緻密に計算された教具
「好きこそものの上手なれ」ということわざがありますが、マリア・モンテッソーリも、子どもは自分の興味に従って活動することで多くを学ぶことができると考えていました。
そのため、日々子どもと関わる中で、子どもたちが楽しみながら取り組んでいることを観察し、子どもたちの関心を引くような教材を作りました。
これらの教材は、素材や寸法など、かなり細かくこだわって作られており、国際モンテッソーリ協会に認定されている教具メーカーは世界に4社のみです。
モンテッソーリが考案した教材は「モンテッソーリ教具」とも呼ばれ、日常生活で必要なスキルや、知識・計算力・思考力などのいわゆる学力の発達を促進するのに役立ちます。
教具は手作りできるものもありますが、その寸法や素材はきっちり決められています。
最近では「モンテッソーリ教具」として全く関係ないものが販売されているので注意が必要です。
⑦平和教育
第一次世界大戦、そして第二次世界大戦という2度の大戦を経験し、激動の時代を生き抜いたマリア・モンテッソーリは、平和な世界を心から願ってました。
彼女は、子どもたちが Seeds of Peace (平和のタネ)であると考え、未来を担う子どもたちに平和の重要性を伝えることで、平和な世界が実現できると信じ、平和教育に力を入れました。
この平和を重んじる信念は現代のモンテッソーリ教育にも反映されており、「地球人」としての意識をもつことや、他人を尊重することが大切であるとされています。
マリア・モンテッソーリは、インド独立の父として知られるマハトマ・ガンジーとも交流が深く、お互いに良い影響を与えていたということが知られています。
ガンジーは「真の平和を守りたいなら、我々は子どもから始めなければならない」というマリア・モンテッソーリの考え方に共感し、子どもの家を見学したり、モンテッソーリ教師養成コースで講演を行ったりしていました。
モンテッソーリ教育のメリット・デメリット
モンテッソーリ教育のメリット
モンテッソーリ教育を受けるメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
- 自分で考えて行動できるようになる
- 集中力が身につく
- 思いやりを持った子になる
- 手先が器用になる
- 整理整頓ができるようになる
モンテッソーリ教育では自主性を重んじるため、自分で考えて行動できるようになりますし、自分が尊重されるのと同じように他人も尊重されるべきということを学ぶため、思いやりを持った子になります。
他人を思いやる心は、縦割りクラスで年下の子に教えることでも身についていくものです。
また、「おしごと」と呼ばれるモンテッソーリ教育の活動は、たくさん手を動かし、自分がやりたいだけとことん続けることができるので、手先が器用になったり、集中力が身についたりします。
そして、こういった活動で使用する道具はすべて置き場所や収納方法が決まっているため整理整頓する習慣や能力を身につけることができるのです。
モンテッソーリ教育で育った子どもがどのように育っていったのかについて、もっと詳しく知りたい方には、相良敦子先生の『モンテッソーリ教育を受けた子どもたち』という本がおすすめです。
相良先生は、日本のモンテッソーリ研究の第一人者ともいわれる方で、たくさんの書籍を出版されています。
『モンテッソーリ教育を受けた子どもたち 幼児の経験と脳』は、子どもの脳に注目し、モンテッソーリ教育を受けた子ども1,000人のデータをもとに、どのような効果があったのかを検証・考察されている大変貴重な1冊です。
モンテッソーリ教育のデメリット
では、モンテッソーリ教育にはドンのようなデメリットがあるのでしょうか。
モンテッソーリ教育のデメリットとして、以下のようなものがあります。
- モンテッソーリ園自体が少ない
- 本物を見極める必要がある
- 小学校以降の継続が難しい
まず、日本にはモンテッソーリ園自体が少ないという問題点があります。「わが子にモンテッソーリ教育を受けさせたいけど、近くにモンテッソーリ園がない」というのは、本当に、よくある悩みです。
また、家の近くに「モンテッソーリ教育を取り入れています」という園があったとしても、実際は全くモンテッソーリ教育ではない「なんちゃってモンテッソーリ園」という場合もあります。
海外では認証制度が取り入れられているところもありますが、現段階において日本では、モンテッソーリ園を名乗る上での明確な基準がないため、選ぶ側が本物を見極める必要があります。
そして、モンテッソーリ教育は本来であれば、0歳から24歳まで包括的に行われる教育ですが、現在のところ、日本でモンテッソーリ教育と言えば、ほとんどが未就学児を対象としたものであるため、小学校以降の継続が難しいというデメリットがあります。
「三つ子の魂百まで(幼時に表れた性質は、いくつになっても変わらない。)」ということわざもあります。乳幼児期のモンテッソーリ教育にもかなりのメリットがあります。
まとめ
ということで、今回はモンテッソーリ教育がどんな教育であるのか、その特徴やメリットデメリットについてお話ししました。
子どものこころとからだの発達を科学的に研究し、子どもたちが本来持っている能力を伸ばしていくということを一番に考えて作られたのがモンテッソーリ教育です。
「誰でも頭が良くなる」とか「絶対に将来成功する」というような魔法の教育ではありません。
この記事を読んで、ひとりでも多くの人にモンテッソーリ教育を知っていただけたら嬉しいです!