モンテッソーリ教育の基礎理論のひとつである発達の4段階。その第1段階は0歳から6歳までの期間で、乳幼児期とも呼ばれています。
今回はそんな発達の第1段階について学んでいきましょう。
発達の第1段階の概要
以下の図は子どもたちの成長過程におけるエネルギー量や変化の大きさを視覚的にあらわした球根の図と呼ばれるものです。
これを見ると6歳ごろまでの期間が赤く太く描かれていて、この時期の子どもたちが非常に大きなエネルギーを秘めており、肉体的にも精神的にも急激に変化するということが理解できます。また、この時期の子どもたちは吸収精神をもっているため、自分をとりまく環境の全てを吸収し、さらに成長していくという特徴があります。
生涯のうちで最も大切な時期は、大学の勉学に相当する時期ではなく、むしろ誕生から6歳までの第1の時期である。なぜなら、この時期にこそ、人間の偉大な道具である知性が形成され、精神的な機能全体が形成されるからである。
マリア・モンテッソーリ
発達の第1段階の身体的特徴
発達の第1段階の子どもたちは乳歯が生えてきたり、ずりばいからはいはい、おすわりからつかまり立ちへと体のポジションが変わったりと、短い期間にとても大きな身体的変化を経験します。
また、脳の神経系が整っていくのもこの時期で、平衡感覚が養われることによって、立ったり歩いたりという動きが可能になります。
一方、第1段階、特に前半の3歳までの子どもたちの体の中ではまだ、様々な菌に対しての抗体ができていないため、風邪をひいたり病気になったりしやいという特徴もあります。
子どもが病気で苦しむ姿を見たくないという気持ちから家にこもってウイルスを寄せ付けない生活をしていたり、必要以上に除菌や抗菌ばかり気にした生活をしたりしていれば確かに安全ではありますが、それではいつまでたっても免疫が強化されません。
そのため、第1段階の子どもたちは様々な病気にかかることで抗体を作る必要があることを理解し、外出を楽しんだり、いろいろなものに触れさせてあげたりすることが推奨されます。
「汚いから触っちゃダメ!」と神経質にあれこれ制限することのないようにしたいものですね。
発達の第1段階の心理的特徴
次に心理的な側面をみてみましょう。
第1段階は感覚的な探求を行う時期であるため、6歳までのこどもは味覚・嗅覚・触覚といった感覚を通して世界を探索していきます。
大人は講義や本などを通して、動かずに学ぶことができますが、子どもたちは常に、実際に見て、聞いて、触れて、体を使うことによって脳を育て、知識を獲得していきます。
最新の科学をもとに脳と運動の関係について書かれた『脳を鍛えるには運動しかない』という本は是非読んでいただきたい一冊です。
特に第2章では学習と運動の関係性について述べられていて、知性と運動の連動性を強調するモンテッソーリ教育とも重なる部分があります。
発達の第1段階は前半と後半に分かれる
発達の第1段階は前半と後半に分かれています。
第1段階前半
まずは0歳から3歳までの獲得期で、非常に大きな変化を経験するグランドトランスフォーメーションの時期といわれています。ホルメ(内なる衝動)に突き動かされ、言語能力や運動能力を獲得していきます。
- 免疫が確立できていないため病気にかかりやすい
- 他者理解ができる段階ではないため自己中心的
- 無意識のうちに集中して繰り返し活動する
- 大人との共同作業を好む
- なんでも真似したい時期
- 小さなものへの興味(敏感期)がある
- 秩序への強いこだわりがある
- シナプスの数が増え、急激に脳が発達する
第1段階後半
後半の3歳から6歳は結晶化(クリスタライゼーション)の時期と呼ばれ、3歳までに獲得した言語能力や運動能力を定着・洗練させていく時期です。
- 未経験のものを意識的に選んで活動する
- 読み言葉・書き言葉を獲得していく
- 「これはなに?」と名称を聞いたり、分類したりする
- 角を合わせたい、きちんと靴を履きたいといった正確さを好む
- 秩序感がだんだんと薄くなってくる。
発達の第1段階のお仕事・活動内容
それでは次に、発達の第一段階の子どもたちに推奨される活動を紹介していきます。それぞれの活動の目的や注意点は別の記事でも紹介していますのであわせてチェックしてみてください。
日常生活の練習とは、私たち大人が日々生活する中で行っている様々な活動を練習するための活動です。
内容としては、歯を磨く、鼻を拭くといった自分自身のケアや、家事などが含まれ、それらの活動自体ができるようになることはもちろん、実は粗大運動や微細運動、平衡感覚を育てていくことにもつながります。
例えば、お風呂掃除や雑巾がけなどでは全身の筋肉を使うことができますし、縫いものや編みものなどは指先を繊細に動かす練習をすることができます。
第1段階の子どもたちは、大人の真似をするのが大好きで、家事などのお手伝いも楽しみながらしてくれる傾向があるので、日常生活の練習をするにはうってつけの時期といえます。
注意点として覚えておきたいのは、この段階では上手にできることよりも子どもたちの興味関心に従って様々な活動に取り組むことに意味があるということです。
そのため、「そうじゃない」「もっとこうして」といった指導をするのはあまり好ましくありません。
私たち大人は、子どもが使いやすいサイズの道具を準備し、お手本を示し、必要以上に口出しせずに温かく見守りましょう。
第1段階ではまず話し言葉のための環境を重点的に整えることが推奨されます。言語教育のためのモンテッソーリ教具はたくさんありますが、周りの大人の会話を聞いたり、話しかけられたりすることがこの時期は特に重要で、子どもたちの言葉の発達につながります。
普段から様々な活動をするときに実況解説のように話しかけるのはとても効果的です。例えば、「今からおむつを替えるよ。これはおむつ。おしりを拭くね」といったように動作や物の名前を声に出して伝えるのはとても良いことです。
子どもたちが言葉を学ぶ時は、私たちが外国語を学ぶ時のように何度も何度も記憶する努力をするわけではありません。実際に手にとって匂いを嗅いだり、食べてみたりといった五感を使った実体験をもとに学んでいくのです。
実際にものを触る経験をすることは、子どもの中でものの分類ができるようになるための一助となります。分類する力が育つと、新しい知識を得やすくなります。
学研ステイフル モンテッソーリ砂文字カード(対象年齢:2歳以上)EC83014
モンテッソーリ教育では、2歳半ごろから砂文字盤や移動五十音などを使って文字を書く前段階の準備をはじめます。鉛筆を持って書く前に、指でなぞったり、パズルのように並べたりする活動をすることでよりスムーズに書き言葉の学習を進めることができます。
文化の活動には、植物、動物、地理、化学、音楽、芸術など様々なものが含まれます。
言語の活動とも重なる部分があり、言語活動の教具としてよく用いられる動物のレプリカや植物の写真などは文化を学ぶ教具でもあります。
シュライヒ ファームワールドの人気者セット フィギュア
シュライヒのレプリカは毛並みまで表現されていてとてもリアルなのでおすすめです。
本物に触れることができるのがいちばん良いことではありますが、レプリカや図鑑、教具などを使えば、家や教室にいながらにして文化を学ぶことができます。
地図パズル
大陸ごとに色がついており、視覚と触覚の両方を使って学ぶことができます。
モンテッソーリ教育で使用される地球儀大陸はサンドペーパーでザラザラとした手触りになっている一方、海はツルツルしていて、触覚を使って陸と海の違いを感じることができます。
数は抽象的なものであるため頭の中で考えようとすると苦手意識を感じやすいものです。モンテッソーリ教育では、具体物を使い、徐々に抽象化ができるように練習していきます。
4歳から4歳半ごろが数の敏感期といわれていますが、数に興味が出てきたら、まず1から10までの数を数えることから始め、十進法、連続数、分数といったように学習を進めていきます。
教具という具体物を用いることによって、視覚や触覚を使いながら数を学ぶことができますが、普段の生活の中でも「クッキーがあるね。お母さんは2つ食べようかな」などと会話の中に数字を交えることもとても効果的です。
数字を交えた会話が多い家庭とそうでない家庭で育った子どもを比較すると、数字を交えた会話が多い家庭で育った子どもの数学の成績のほうが良い傾向があるという研究結果もあるほどです。
水彩画・クレヨン画といったアートの活動はもちろん、自分の想いや意見を伝えることも自己表現の活動といえます。ただし、自己表現の活動は自由度が高く、子どもたちも大好きなものであるため、環境の中に自己表現の活動が多すぎるとそればかりに取り組んでしまいます。バランスよく様々な活動を行うため、数の制限をかけることも忘れないようにしましょう。
モンテッソーリ教育では感覚を通して学ぶことを大切にしているため、モビール、台とリング、チップ落としなど、感覚教具と呼ばれるものがたくさんあります。
ただ、これらは感覚の基礎作りのためのものなので、主に3歳以下の子どもたちの環境で使われ、3歳以上になると教具よりも実物を使って感覚を洗練させていくことが重要であるとされています。
感覚教具は国際モンテッソーリ協会が公式に認めているニーホイス社やGAM社のものがよく使われていますが、どうしても価格が高く、特に家庭で取り入れる場合などにはハードルが高いものです。
しかし、その教具を何のために使うのかということさえ理解していれば、段ボールや手芸用品などを使って自分で作ることもできます。実際、アフリカや難民キャンプなどの貧しい地域では、手に入る道具や素材を使って教具を手作りしています。
発達の第1段階のモンテッソーリ環境
家庭
家庭は子どもが初めて出会う環境で、家族と落ち着いて過ごすことができる環境であることが求められます。特に生まれてからの最初の8週間は共生期間といわれ、母親と子どもが愛着関係を築くために最も重要な時期です。
働き方や社会構造が変化している現代社会においては難しい場合もあるかとは思いますが、少なくとも第一段階の前半つまり3歳ごろまでは家庭で過ごすことが望ましいといえます。
元々モンテッソーリ教育は3歳以上の子どもを対象にしたもので、社会構造が変化し、母親が仕事に早く復帰しないといけないという家庭が増えたためそのニーズに応える形で3歳以下の子どもたちも受け入れるようになりました。
Nido ニド
0歳から歩きはじめるころまでの子どものためのクラス環境はニドと呼ばれます。ニドは家庭の代わりとなる場所であるため、落ち着いた雰囲気で、特定の大人がケアをする環境が整えられていることが重要です。
Nidoの詳しい環境設定についてはこちらの記事で紹介しています。
IC インファント・コミュニティ
歩きはじめてから、2歳、3歳ごろまでの子どもたちはICと呼ばれる環境で過ごします。
この時期の子どもたちは自分の意思で動き回り、様々な活動をします。大人は子どもをよく観察し、教具の使い方を紹介したり、難しい部分をサポートしたりすることができます。
ICの詳しい環境設定についてはこちらの記事で紹介しています。
Casa Dei Bambini 子どもの家
日本でいえば幼稚園にあたるもので、3歳から6歳の子どもたちが過ごす環境です。
学習への興味が出てきて、可能性をどんどん広げていく時期であるため、子どものニーズを満たすことができるよう、教具を常に美しく魅力的な状態に保つことはもちろん、子どもをよく観察し発達段階に合わせた教具を事前に準備しておく必要があります。
第1段階で見られる傾向性
第1段階の子どもは感覚器官を通して周りの環境から様々なものを取り込んでいきます。例えば赤ちゃんの時期はなんでも口に入れてしまうため、誤飲事故には注意する必要がありますが、なめたり触ったりすることがこの時期の唯一の学習方法ともいえます。必要以上に制限をかけないようにしましょう。
家具の配置がいつも変化しないとか、1日の流れがルーティン化されているといったように、秩序感があることによって情緒が安定します。
布団の位置や着替えの場所、活動の順番などができるだけ変わらないようにすることが推奨されます。
この時期はコミュニケーションを取りたいという気持ちが非常に強いものです。生まれた環境で使われている言語を学ぶことにより周囲とコミュニケーションをとれるようになっていくため、豊かな言語環境を準備してあげたいですね。
子どもとの会話の大切さや適切な対話方法について、ダナ・サスキンド博士の『3,000万語の格差』をぜひ読んでみてください。話しかけの量と質が子どもの成長に大きく影響することが様々なデータをもとに示されていて、とても勉強になります。
3000万語の格差——赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ
見当識は「よりどころ」といった方がわかりやすいのではないかと思います。この世界に新しく生まれた子どもたちは不安な気持ちも大きいため、安心できる人や場所、空間を求めています。秩序感とも共通しますが、子どもが安心感を得られる環境を整えてあげましょう。
まとめ
発達の第1段階は人間としての基礎を築いていく時期であるため、環境の整備がとても重要になります。
吸収精神を持っているこの時期の子どもたちは視覚や聴覚から入ってくる情報を無意識のうちに自分の中に取り入れようとする力を持っており、置かれた環境が良いものであっても悪いものであっても、そのすべてを自分の一部として取り込んでいきます
特に0~3歳の乳児期には、精神的胎芽期とも重なっており、「三つ子の魂百まで」ということわざがあるように、一生涯続く人格が形成されていきます。
私たち大人が第1段階の子どもたちと関わる際には、自分の振る舞いや言動、そのすべてがその子の人生に大きな影響を及ぼすということを理解しておく必要があります。